彼女は兄夫婦の家の家政婦の役を引受けて、相当に 切廻 ( きりまわ )していた。 崖下に住まう金魚屋の息子の複一は、かつていじめつけた崖上に住まう令嬢、真佐子のもつ肉体美と無性格に魅惑されるようになる。 かろきねたみ(、青鞜社)• 複一は未練がましい「執着心」をそなえ「現実世界」に属しており、真佐子は「縹渺」とした態度をそなえ肉体は「現実世界」に、しかし精神は「非現実的世界」に属しており、どこか無限の遠方から真佐子の生は操られている。
10そして 「静かな夜だな」 というより仕方がなかった。
ちょっと強迫観念。
わけて真佐子のような天女型の女性とは 等匹 ( とうひつ )できまい。 これに対して複一の性格は「自己愛的傾向性」を有している、そして、その傾向性は、みずからの生の安心(存在)を希求する特徴をもっている。
11専門家の側では、この機に乗じて金魚商の組合を設けたり、アメリカへ輸出を試みたりした。
真佐子は 淑女 ( しゅくじょ )らしく胸を反らしたまま軽く目礼した。
すごいですねえ。 池は 葭簾 ( よしず )で 覆 ( おお )ったのもあり、 露出 ( ろしゅつ )したのもあった。
ラストの美しい金魚のくだりは、最高に小説ならではの快感に満ちていました。
すると真佐子は漂渺とした白い顔に少し 羞 ( はじらい )をふくんで、 両袖 ( りょうそで )を掻き合しながら云った。
増補版1973年1月。
研究生は上級生まで集めて十人ほどでかなり親密だった。
楼上 ( ろうじょう )で 蛾 ( が )が一二匹シャンデリヤの 澄 ( す )んだ灯のまわりを 幽 ( かす )かな淋しい悩みのような羽音をたてて飛びまわった。
10これ 等 ( ら )の豊富な標本魚は、みな復一の保管の下に置かれ、毎日昼前に復一がやる餌を待った。
芝生 ( しばふ )の 端 ( はし )が 垂 ( た )れ 下 ( さが )っている崖の上の広壮な 邸園 ( ていえん )の 一端 ( いったん )にロマネスクの半円 祠堂 ( しどう )があって、一本一本の円柱は六月の 陽 ( ひ )を受けて 鮮 ( あざや )かに紫 薔薇色 ( ばらいろ )の 陰 ( かげ )をくっきりつけ、その一本一本の間から高い 蒼空 ( あおぞら )を 透 ( す )かしていた。
「妙なところを散歩に 註文 ( ちゅうもん )するのね。 そんなあたりの影響があるなあ、と思いました。 でもふたりは現実的に結ばれることは無い。
11ちなみにこの文庫には他の短編も数多く入っています。
最後のシーンは絢爛な金魚が目に浮かぶようで、胸が締めつけられ… 幻だったかもしれません…しかし、読み手がそうとらえてはいけないと感じました。